大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)3号 判決

原告 東洋ゴム工業株式会社

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十七年抗告審判第二一七号事件について、特許庁が昭和二十七年十二月十六日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十三年六月十四日「こま」の図形とその上部に「コマ印」の文字を左横書してなる原告の商標につき、第十七類ゴム調帯、ゴムホース、ゴムパツキング、その他本類に属する商品一切を指定商品として、その登録を出願したところ(昭和二十三年商標登録願第九四七七号事件)、拒絶理由の通知があつたので、昭和二十五年六月十七日指定商品中「珈琲粉砕機」を除くと訂正したが、昭和二十七年一月三十一日拒絶査定を受けた。

よつて原告は、同年三月十三日抗告審判を請求したが(昭和二十七年第二一七号事件)、特許庁は、昭和二十七年十二月十六日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、審決書謄本は同年十二月二十七日原告に送達された。

二、審決の要旨は、次の通りである。

原告の商標は、「こま」の図形と、その上部に「コマ印」の文字を左横書にしてなるもので、原査定が、拒絶理由に引用した登録第三八二三八五号の商標は、横楕円形輪廓内に、ゴジツク体で「TOP」の英文字を横記してなるもので、第十七類ポンプ及びその各部、バルプ、コツク、消火栓、各種パツキング、各種ベルト、ゴムホース、蛇管、スチームトラツプを指定する商品としているものである。両商標は、外観上及び称呼上においては、明らかに差異があるが、観念上より見るときは、前者は、玩具の「こま」の観念を有し、後者は、「TOP」の英文字を要部としてなるものであつて、これは上位、頂上又はこれに相当する意義を有するが、この外玩具の「こま」の意義をも有し、このことは一般世人によく認識され、かつ日本語化している。従つて世人が本件商標を一見するときは、英語では「TOP」を直感せしめ、両商標は観念を同一にし、取引上彼此まぎれ易く、誤信される虞がある。従つて両商標は互に類似し、且つ、指定商標は明らかに牴触するものであるから、商標法第二条第一項第九号に該当し、登録は拒絶せられるべきものである。

なお、昭和二十五年審判第九三号及び第九四号事件の審決は、内容を同一にする同一審判事件にのみき束力を有し、その審判とは内容を異にする本件抗告審判の判断を拘束するものでないし、また現社会下の事情を勘案し、右審決は、本件に関する商標類否の判断基準とするに足らない。

三、しかしながら、右審決は、次の理由によつて、違法である。

(一)  原告の商標は、「こま」の図形と「コマ印」の文字よりなり、「こま」以外に異なる観念の生ずることがない。引用商標の英語「TOP」には、尖端、頂上、先頭又はこまの意義があるが、現今のスポーツの発展より見るも、日本語的には、野球における「トツプバツター」、水泳、ランニング、マラソンにおける「トツプを切つている。」「誰がトツプである。」又競馬、競輪等における「トツプ競い」の言葉が使われ、殊に山登りの頂上をトツプという言葉は、日本人の大人より子供に至る迄「先頭」とか「真先き」又は「頂上」の意に直感的に感受しており、実際に「トツプ」を「こま」と感受する人は、前尖端、先頭と感ずる人に比し、余りに少なく、一般的には「こま」と感受しないといつてもよい位である。子供において、玩具の「こま」を英語の「TOP」と云つて聞かしても知らない者が大多数であり、大人においても、中等教育以上を終えた人ですら、辞書を見て「TOP」と「こま」の関係を知る程度に、現在においては、「TOP」は「先頭」の方面に感じている。すなわち原告の商標「コマ印」は、引用商標の「TOP」とは、観念上も類似してはいない。

(二)  原告は、昭和十三年五月から各種のベルト、パツキング、タイヤー、ゴム靴、防水布等ゴム工業品百般を製造販売して来たもので、特に平型ベルトにおいては、昭和十七年中から現今まで、「コマ印」として、非常に多く製品を市販し、業界においては、「コマ印」のベルト、また平ベルトにおいての「コマ印」といえば、東洋ゴム会社のものであることは著名な事実である。よつて原告は、これより先昭和二十五年八月十八日、審決が引用する登録第三八二三八五号商標「TOP」に対して、同商標は、商標法第二条第一項第八号に違反し、且つ、世人に取つて、著名な請求人の製品であるかのように、出所の混同誤認を来たす虞あるから、同法第二条第一項第十一号にも牴触するものとして、登録の無効審判を請求したところ、(昭和二十五年審判第九三号及び第九四号事件)特許庁は、昭和二十六年四月十三日、「TOP」の語が直ちに邦語としての「こま」の観念を聯想し、また原告の「コマ印」の標章を目して「TOP」印と呼ぶほど、一般取引上両者が普通的に相通ずるものとは認め難く、またその指定商品との関係においても、取引上このような観念を生ずべき特別事情を認めるに足る事実もない。すなわち原告の主張するように、「TOP」の文字から「こま」の観念を生ずるものとするのは、取引上自然の観念ということはできないとの理由で、原告の申立は成り立たない旨の審決をなし、原告の右主張を排斥している。しかるに今、本件について、特許庁は、「TOP」と「こま」とは、観念上類似すると審決している。斯様に特許庁の同審判部に属する審決が、同じ事例に対して、全く相反する判断を下すことは、世人を惑わすことで不合理も甚だしい。たまたま原告はその厄に遭い、周知著名な標章の登録不能となる現状にして斯く本訴に及んだ。

第三答弁

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は認める。

二、原告の登録出願の商標と、引用にかゝる登録商標とを、観念上から比較して見ると、前者は、玩具の「こま」を観念することはいうまでもないことで、又後者は、「TOP」の英語を要部とするものであり、この英語を邦訳すれば、原告が主張するように上位、頂上またはこれに相当する意義を有し、かつ、現スポーツ界では、種々のスポーツ用語として、日本語同様広く使用されていることは争わない。しかしながら、国内における英語知識普及の事情を勘案すれば、「TOP」の英語は、上記邦訳以外に、玩具の「こま」として初等英語の教育課程中に存することは、極めて顕著な事実であるから、世人をして「TOP」は、玩具の「こま」であることも容易に認識せしめ得るものであるというべく、故に「TOP」の英語は、「こま」を意味するものとしても、日本語化していると、一般辞書をひもとくまでもなく認め得るのであつて、本願商標を世人が一見したときは、英語では「TOP」をも容易に想起せしめ得るものといわなければ、教育程度の発達した今日の社会通念に反する結果をまねくことは明らかである。要するに、英語その他の外国語からなる引用商標について、それが数箇の意義観念を持つており、しかもそれぞれの意義が、容易に世人に認識されている場合には、その各々の意義観念と同一の観念を有する本願商標とは、互に観念上類似するものとしなければならない。従つて両商標は、取引上彼此相紛れ易く、仮令両者が外観上及び称呼上非類似であつたにしても、右の点で互に類似する商標であることは免れない。

なお、昭和二十五年審判第九三号及び第九四号事件と、本件抗告審判事件とは性質を異にする審判事件であること極めて明瞭であるし、審級を異にした審判事件においても、当然このような相反する判断の起り得るものであることは、ことさらいうまでもない。従つて原告が右事件における審決を引用し、両商標は非類似であると主張するのは、何等の理由もない。

第四(証拠省略)

三、理  由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、右認定に明らかなように、原告の出願にかゝる商標(甲第一号証商標登録願参照)は、「こま」の図形とその上方に左横書きに「コマ印」と記載された文字とで構成されており、引用にかゝる登録第三八二三八五号商標(乙第一号証商標公報参照)は、横長の楕円形輪廓内にTOPの文字を左から横に並べて構成されている。

三、よつて右両商標が、審決の説明しているように、観念上類似しているものであるかどうかを判断するに、前者が、玩具の「こま」の観念を有することは、いうをまたないところであるから、問題は結局、後者からこれと同一または類似の観念が生ずるかどうかである。商標が、全然新たに考案された言葉以外の、外国語の文字で構成されている場合、現在のわが国における英語の使用についての一般的状態から考えると、その外国語が明らかに英語以外の外国語であつたり、または、その指定商品についての取引者及び需要者が、全然そうした外国語に縁のない人々、もしくは、普通英語以外の外国語を使用する慣行を持つている人々であつたりする特殊の例外を除いては、これを英語として邦訳したとき、普通一般に有する簡単な訳語についての観念を生じ、かつ、このような訳語が二つ以上ある場合においても、必ずしもその最も普通な一つに限られることなく、前述の性質を備える限り、その各箇についての観念を生ずるものと解せられる。そこで右引用の登録商標について見るに、「TOP」の英語は、普通は普通一般に行われる簡単な訳語として、(一)頂、頂上、最高の、一番上の等の意義と、(二)こまの意義を有することは、当裁判所に顕著である。もとより近時スポーツの発展普及に伴い、「TOP」の英語が、原告の主張するように、右(一)の意義に屡々使用されることは、疑いのないところであるが、右(二)の意義に普通解せられ、使用されることも、また到底これを否定することができない。

して見れば、右両商標は、観念を共通にし、類似の商標と判断せざるを得ない。

四、弁論の全趣旨によれば、原告は、これより先、右引用商標の登録が商標法第二条第一項第八号及び第十一号に違反してなされたものとして、無効審判の請求をなしたところ、(昭和二五年審判第九四号事件)特許庁は、「TOP」の語が、直ちに邦語としての「こま」の観念を聯想し、また原告の本件の「コマ印」の標章を目して「TOP」印と呼ぶほど一般取引上両者が普遍的に通ずるものとは認め難いとして、右原告の申立は成り立たない旨の審決をしたものであることが認められ、原告は、右審決を引用して、両商標が互に類似するものでないと主張する。同一の商標についての類否の判断が、登録無効審判の請求における確定した審決と登録拒絶査定に対する抗告審判の審決とにおいて、互に矛盾するものであることは、疑もなく甚だしく好ましくないものであるが、前者の審決が、当然に後者の判断をき束するものとは解されないし、また二つの審判部の判断が、必ずしも同一に出ないことは、時としては免れ得ないところであつて、右の審決は、前記の認定を覆すに足りない。

五、以上の理由により、原告の本訴請求は、その理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 鈴木重光)

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